2025年12月19日、自民党より令和8年税制改正大綱が公表されました。これは毎年、翌年の国の税制改正の基本方針を定めるために与党が公表する重要な文書です。

その中には、投資家保護のための説明義務をはじめとする健全な取引環境の構築に向けた法整備等への対応を前提として、暗号資産の現物取引、デリバティブ取引、ETFから生じる所得を分離課税とする旨、3年間の繰越控除制度を創設する旨が明記されました。

本記事では、暗号資産の税制改正のこれまでを解説し、この改正の見通しが投資家へどのような影響を与えるのかを考察します。

税制改正の背景~暗号資産(仮想通貨)の普及拡大~

日本国内の暗号資産口座数は2025年10月時点で1,300万口座を超え、2022年から2倍以上に増加しています。

その普及を受け暗号資産業界は、マネー・ローンダリングやテロ資金供与対策としては自主規制規則に基づくトラベル―ルを先行導入し、利用者財産の安全管理としては暗号資産交換業者の社内管理態勢に関する一斉点検等を実施するなど、暗号資産の安全な普及に取り組んできました。

一方で投資家の目線に立つと、暗号資産(仮想通貨)の取引で得た利益は、日本では現在「雑所得(その他雑所得)」に区分され、給与所得など他の所得と合算して総合課税の対象となっています。そのため所得金額に応じて税率が累進的に上昇し、所得税・住民税を合わせた最高税率は約55%にも達します。暗号資産の税率が「高い」というイメージが、投資行動のハードルになるケースも少なくありません
また、現行制度では暗号資産取引による損失の扱いにも一定の制約があり、損失を翌年以降に繰り越して後年の利益と相殺する繰越控除は認められていません。比較的価格変動のある暗号資産の取引の柔軟性が限定される面があります。

国内の暗号資産(仮想通貨)税制改正の現在地

一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会、一般社団法人日本ブロックチェーン協会、一般社団法人日本暗号資産等取引業協会などの暗号資産関連の業界団体は、暗号資産の利用者環境の改善に向けて税制改正を長らく要望し、近年は関係省庁と連携を深めながら、議論を行ってきました。

主な要望は、暗号資産取引で得た所得の課税方式を株式やFX取引と同様に申告分離課税へ変更し、税率を一律20%に引き下げることです。これにより、新しいテクノロジーである暗号資産の取引を国際水準並みに活性化させ、日本のデジタルエコノミーを発展させる狙いがあります。

政府、関係省庁は、口座数の増加から見る普及拡大を受け、投資家保護のための健全な取引環境の構築に向けた法整備等への対応を前提に、税制改正を前向きに検討しています。金融庁は2025年8月に公表した令和8年度(2026年度)税制改正要望の中で、「暗号資産取引に係る課税の見直し」を主要項目に掲げ、必要な法整備と併せて申告分離課税の導入を含めた税制の見直しを行うことを要望しました。従来は民間団体中心だった要望が本格検討事項になったと捉えられます。

同年7月以降、金融庁の金融審議会「暗号資産制度に関するワーキング・グループ」にて、投資家保護を目的とした情報提供規制や業規制、不公正取引規制の整備のため、金融商品取引法(以下、金商法)への移行が活発に議論されました。

そして、2025年12月19日に自民・維新の両党より公表された「令和8年度税制改正大綱」には、下記の記述がなされています。

暗号資産の普及に伴う利用者保護等と一体で、分離課税の対象とすることや、繰越控除制度の創設が明記されました。

暗号資産(仮想通貨)の税制改正が実現した場合の主な影響

必要な体制整備が整い、申告分離課税への移行が実現すれば、個人投資家の税負担が軽減されます。現行では利益が大きくなるほど最高55%の超過累進課税が適用されていましたが、改正後は株式や投資信託と同じ一律約20%の税率で課税されることになります。

損失繰越が可能になった場合には、リスク管理の向上につながります。仮にある年に大きな損失が出ても、それを翌年以降の暗号資産利益から控除できれば、長期的な視野で暗号資産を運用することができます。価格変動の激しい暗号資産市場では、一年単位では大きく勝ち越す年と負け越す年が交互に訪れることもありますが、損失の繰越控除が認められれば税務上もそのブレを平準化できます。

一方で、税制改正大綱には他の総合課税の対象となる所得との損益通算は適用されないことや、長期保有に係る譲渡所得の1/2の低減措置は適用されないと記載されている点は注目です。

また、分離課税となる対象範囲については、暗号資産業界はブロックチェーン上でウォレットなどを通じて行われる取引をそのエコシステムにおいて重要と位置付けている一方で、税制改正大綱には

と記載されていることから、まずは普及拡大に伴う投資家保護を実施することとなる、国内の上場銘柄について、暗号資産交換業者に譲渡を行った場合に分離課税とすると捉えられます。

税負担軽減以外にも、分離課税への移行は市場や産業にポジティブな影響を及ぼす可能性があります。従来、他の金融商品と比べて「税金が高い」と受け止められやすいものが払しょくされることで、個人投資家にとって暗号資産取引の魅力が増し、取引が活性化する可能性があります。

改正のスケジュールについては譲渡所得の20%適用に係る改正が、「金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日(以下「適用開始日」という。)以後に行う特定暗号資産の譲渡等について適用する。」と記載されており、まずは目下金商法への移行に関する施行と業界の体制整備の準備が期待されます。

税制改正で暗号資産(仮想通貨)の損益計算や確定申告は不要になる?!

税制改正により他の金融商品と同等のシンプルな税率になり、暗号資産の利用が活性化することが期待されますが、どのような税制の下でも投資家自身が正確に損益を計算し、適切に申告する姿勢は不可欠です。

特定口座や源泉分離課税の可能性も否定されませんが、暗号資産そのものが本来持つ、個人がウォレットを通じて世界中の誰にでも24時間365日自由に送金するPeer to Peerの性質や、DeFiによるプログラマブルな金融取引が行えるという性質に立ち返ると、単一の機関が利用者の正しい取得単価および実現損益を把握することは困難です。また、暗号資産で基本的に採用されている総平均法は、年末にならないと平均取得単価が確定しないため、実は納めなくていい金額が徴収されていた、というケースも生じえます。

また、日々の投資成績の管理にとっても損益計算は重要です。特に複数の取引所やウォレットを利用しながら運用で成績を収めるには、取引記録の管理と正確な損益計算を徹底しておくことが重要です。

いずれにしても、目下検討中の改正であるため、どのような税制になっても安心して取引を行うことが出来るように損益計算を行い、税務調査が訪れた場合にも説明が出来る状態にしておき、延滞税や追徴を防ぐことが大切です。

こうした場合も、暗号資産の損益計算ツール「クリプタクト」を使えば、API連携できる取引所のデータと連携し自動で反映させたり、ウォレット接続によりDeFiやNFTの取引履歴をインポートして自動で取引種類を識別するなど、ミスなく安心かつ効率的に損益を計算し、確定申告と税金の納付を行うことが可能です。

まとめ

暗号資産の日本での普及拡大に伴い、投資家保護のために金商法移行による様々な環境整備が検討され、このたび令和8年度与党税制改正大綱に暗号資産の分離課税化が盛り込まれました。改正にあたっては与党、関係省庁、事業者一体となって多くの関係者の間で検討がなされています。今回の改正は日本のweb3市場を取り巻く環境の改善につながる重要な改正であり、今後の暗号資産、ブロックチェーンの利活用、ひいてはデジタルエコノミーの進展に繋がることが期待されています。今後の動向を注視しながら、市場の発展に向けて損益管理を適切に行いましょう。

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執筆者:大津良裕 株式会社pafin 事業開発担当
2012年より大手学術団体の職員として、顧客管理、100周年記念事業等に従事。
2020年より一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会の職員として、税制改正、電子決済手段に係る法整備、会計・監査の円滑化など、暗号資産・Web3分野の環境整備、業界発展に奔走。
2024年より事業開発担当として株式会社pafinに参加。損益計算の面から、暗号資産、Web3のシームレスな体験向上と事業拡大に努める。

暗号資産の自動損益計算サービス「クリプタクト」:https://www.cryptact.com/

|トップ画像:自民党ウェブサイト(キャプチャ)

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