2024年12月に史上初の10万ドルの大台を突破し、歓喜に沸いたビットコイン(BTC)市場。年明けもその熱は冷めず、このまま上昇トレンドが続くとの期待が市場を支配していた。
しかし、2025年に入ると状況は一変。2月ごろから下落基調に転じ、4月には一時8万ドルを下回った。5月以降は持ち直し、10月には過去最高値(ATH)となる12万6000ドルを更新する場面もあったが、上昇は長続きしなかった。米中関係の悪化などを背景に急落し、足元の価格は9万ドル前後で推移している。
こうした展開は、年初に広がっていた強気シナリオとは大きく異なるものだ。
ビットバンク(bitbank)マーケット・アナリストの長谷川友哉氏もまた、2025年4月の時点では「年末に20万ドル到達」という見通しを描いていた一人だ。ではなぜ、その予想は大きく乖離することになったのか。
半減期後の上昇という夢は潰えたのか。それとも、一時的な調整に過ぎないのか。
NADA NEWSは昨年末、長谷川氏を直撃取材。2025年の市場を狂わせた誤算と2026年を見据えたビットコイン市場の行方を聞いた。
長谷川友哉/bitbankマーケット・アナリスト
ビットバンク(bitbank)マーケット・アナリスト──英大学院修了後、金融機関出身者からなるベンチャーでFinTech業界と暗号資産市場のアナリストとして従事。2019年よりビットバンク株式会社にてマーケット・アナリスト。国内主要金融メディアへのコメント提供、海外メディアへの寄稿実績多数。
◇◇◇
AIとの競合、DAT企業のリスク
「2025年末までに20万ドル到達」というシナリオは、なぜ崩れたのか。
長谷川氏は2025年を振り返り、市場を狂わせた “誤算”について説明した。
最初に指摘したのは「資金の向かう先が想定と大きく変わった」こと。2025年、市場の主役となったのはビットコインではなく、生成AIを中心としたハイテク分野だった。株式市場では、NVIDIAなどAI関連銘柄への資金流入が加速し、リスクマネーの多くが吸い寄せられた。
結果として、ビットコインは「スポットライトを奪われた格好になった」と振り返る。
一方、10月以降になるとAIバブルへの警戒感が強まり、関連銘柄が調整局面に入った。金融市場全体が「リスクオフ」に傾く中で、ビットコインも換金売りの対象となり、道連れにされる形となった。「AIに始まり、AIに終わった1年だった」と長谷川氏は表現した。
〈AIバブルへの懸念が10月以降のBTC急落にもつながった、提供:bitbank〉
2つ目に挙げたのは、BTCを企業財務に組み込むDAT(デジタル・アセット・トレジャリー)企業の存在。DAT戦略は世界的に広がりを見せたものの、「機関投資家から見ると、必ずしもポジティブには映らなかった」と指摘する。
事業リスクと価格変動リスクが重なり、投資判断を難しくした側面があったとし、「DAT企業やETFによる買いが目立った局面はあったものの、一時的にとどまった」と説明。結果として2025年は「目立った買い手が不在だった」と総括した。
期待通り進まなかった米利下げ
さらに長谷川氏は、想定外の要素の一つとして米国の金融政策を挙げた。同氏はこれまで一貫して、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げがBTC上昇の重要な鍵になると指摘してきた。
しかし、2025年の米経済は想定以上に底堅く、FRBは急激な金融緩和に踏み切らなかった。9月から利下げサイクルには入ったものの、ピークからの低下幅は約2%にとどまっている。
長谷川氏は「年後半の金利環境そのものは、必ずしも悪くなかった」としたうえで、利下げがそのまま市場の流動性改善につながらなかった点を問題視した。背景にあるのが、米財務省による短期国債(Tビル)の増発だ。
国債発行が増えたことで、米財務省の一般会計口座(TGA)に資金が吸収され、金融機関が市場で使える現金が減少。その結果、金利は下がっても、リスク資産に向かう資金が十分に回らなかった可能性があるという。
CPI(消費者物価指数)や輸入物価指数(IPI)の動向を踏まえ、長谷川氏は「米国は利下げを進めたくても進み切れず、渋っている状態だ」と説明。市場が期待したほどの流動性回復は起きず、リスク資産全体に慎重なムードが広がったと述べた。
最大の誤算は「半減期の呪い」
AIとの競合、DAT企業、米国の利下げという要因を挙げたうえで、長谷川氏が最大の誤算と位置づけたのが、半減期後の上昇シナリオだった。
「過去の半減期サイクルでは、相場を牽引する“主役の買い手”が存在していた」とし、2016〜17年は個人投資家、直近のサイクルでは現物ETF(上場投資信託)の登場が価格上昇の原動力になったと振り返る。
過去のデータを見ると、ビットコインは半減期からおよそ400〜600日後に史上最高値(ATH)を更新し、そのたびに上昇率は約3分の1ずつ低下してきた。この経験則に基づき、長谷川氏は2024年10月に6万5000ドル台を突破した局面を起点に、2025年後半にかけて3倍程度上昇し、年末に20万ドルへ到達するというシナリオを描いていた。
しかし、実際の2025年は過去のサイクルとは大きく異なる動きを見せた。長谷川氏はこの状況を「半減期の呪い」と表現する。
〈過去と比べ、半減期後の上昇に大きな違いがあった2025年、提供:bitbank〉
半減期サイクルが広く意識されるようになった結果、いわゆる「ガチホ勢」と呼ばれる長期保有者による利益確定売りが早期から加速。高いボラティリティ(値動き)と市場期待値の低下により、個人投資家は積極的にリスクを取りにくい環境に置かれた。「今あえてビットコインに投資する理由が見当たらない」という空気が市場を覆い、短期保有BTCの増加も見られなかったという。
「ここは、アナリストによって見解が分かれるところだ」と前置きしつつも、長谷川氏自身はすでに、「従来の半減期サイクルは成立しなくなっている」との見方を示す。
もっとも、10月につけたATHからの下落率は約30%。これまでのビットコインのボラティリティと比較すれば、「決して大きな調整ではない」と指摘するが、投資家の疲弊も招いていることも事実だ。
〈「我慢の年」だった2025年、提供:bitbank〉
2026年最大の焦点は「史上最高値」の更新
では、2026年はどうか。長谷川氏が注目する最大のポイントは、史上最高値を更新できるかどうかだ。
もし更新に成功すれば、単なる価格上昇以上の意味を持つ。半減期サイクルの事実上の崩壊を意味するからだ。
過去の経験則が通用しなくなれば、「『25年10月が天井』と意識していた投資家が戻る可能性がある」と長谷川氏は見る。貴金属市場からの資金流入やリテールの再参入が起きるシナリオも想定している。
一方で、2026年後半にかけては2つの明確なリスクが存在するという。
1つ目は米国の中間選挙。ニューヨーク市長選挙で民主党候補が勝利した事例などを引き合いに、共和党の勢いに陰りが見え始めていると指摘。上下両院と政権を共和党が握る「トリプルレッド」の状況が崩れ、下院で過半数を維持できなければ、暗号資産政策への追い風が弱まる可能性がある。
2つ目は、FRBによる利下げ局面の終了だ。現状は国内消費が減速しているため、関税の影響が薄れれば物価上昇は落ち着く可能性があるという。一方で、消費や労働市場が回復すれば年後半には利下げ停止、あるいは引き締め再開が意識され、相場の転換点となり得ると指摘した。
ベストシナリオは「2026年夏、25万ドル」
長谷川氏が示す2026年の想定レンジは広いが、ベストシナリオとして描くのが「2026年7月の25万ドル到達」だ。
〈青が上限、赤が下限の予測、提供:bitbank〉
米財務省の報告書を引き合いに、TGA(米財務省一般会計口座)の取り崩しやFRBによるQT(量的引き締め)停止などを背景に、金融機関への流動性供給が進めば、リスク許容度は改善する可能性があると説明する。もっとも、その効果はコロナ禍のような強烈な流動性をもたらすには至らず、あくまで「下支え」の効果にとどまると見ている。
「夏に史上最高値を更新した場合、2016〜17年型の急勾配な上昇が一時的に起きる可能性がある」としたうえで、年後半には利下げ停止や中間選挙の影響が表面化すると分析。2026年末の最終的な着地点としては、12万〜15万ドル程度を想定していると述べた。
価格上昇が続くことは考えづらく、「年末ベースで見ると、そこまで強気ではない」と語った。
取材の最後、長谷川氏は「史上最高値を更新した先は、正直、予測ができない」と素直に明かした。アナリストの分析も「もはや、半減期の計算だけでは成り立たなくなっている」とし、市場は次のフェーズに入りつつあるとの見方を示した。
これまでの理論が通用しなくなる可能性があるからこそ、2026年にATHを更新するかどうかが最大の見どころになる。
ビットコインは半減期の「呪縛」から解き放たれるのか。それとも再び忍耐の年となるのか。2026年は、今後のBTC市場にとって象徴的な分岐点となりそうだ。
|文・インタビュー:橋本祐樹
|写真:NADA NEWS編集部
|トップ画像:Shutterstock
New Atlas for Digital Assets ──
デジタル資産市場の「地図」と「コンパス」を目指して


