金は数千年にわたり、人類の価値保存手段として機能してきた。一方、ビットコイン(BTC)の歴史はまだ十数年に過ぎないものの、「デジタルゴールド」と称されることもあり、両者は価値の根拠や役割をめぐってしばしば比較される。
開催中の「FIN/SUM 2026」で4日、貴金属の歴史を手がかりに「デジタルアセットの未来」を探るパネルセッションが行われた。議論の中心は価格水準そのものにとどまらず、ETF(上場投資信託)の登場による変化や税制整備の方向性など、両資産が金融システムの中でどのように位置づけられるかという点にあった。
登壇したのは、一般社団法人日本貴金属マーケット協会代表理事の池水雄一氏と、楽天ウォレット代表取締役社長の山田達也氏。金価格と連動する暗号資産「ジパングコイン(ZPG)」を発行する三井物産デジタルコモディティーズ取締役の辰巳喜宣氏がモデレーターを務めた。
それぞれの業界を代表する立場からの議論は、法定通貨の価値が希釈し続けているという問題意識を共有しつつ、投資家層の変化や今後の展望にまで及んだ。
金価格上昇の転機となったETF
セッションではまず、資産クラスとしての成熟過程が議題に上った。
池水氏は、2004年のニューヨーク証券取引所での金現物ETF(上場投資信託)上場を「エポックメーキングだった」と振り返る。それまで長期にわたり低迷していた金価格は、ETFを通じて機関投資家資金を呼び込み、本格的な上昇局面へと転じた。証券口座から売買できる環境が整ったことで、金は現物中心のコモディティからポートフォリオ資産へと位置づけを変えたと説明した。
〈日本貴金属マーケット協会代表理事の池水氏〉
山田氏は、この歴史を暗号資産市場に重ねた。
2024年に米国でビットコイン現物ETFが上場したことで、テクノロジーに詳しいアーリーアダプター中心だった市場の「裾野が大きく広がった」と指摘。今後は機関投資家による組み入れが一段と進むとの見通しを示した。
さらに、国内の暗号資産規制を金融商品取引法(金商法)下へ移行させる動きに伴い、売却益への申告分離課税の適用や国内ETF解禁が同時期に進む見方を示した。タイミングとしては、2028年1月になる可能性が指摘されている。
▶ 関連記事:【独自】暗号資産ETF、2028年解禁へ──税制改正と同時施行で調整
国内のETF上場に向けて山田氏は、カストディ(保管)をどの交換業者が担うのかといった実務面や投資家保護の枠組み整備など「たくさんの課題が残っている」と付け加えた。
〈楽天ウォレット代表取締役社長の山田氏〉
法定通貨への不信、若年層にも広がり
長年、金の実需市場を見てきた池水氏は、自身はビットコインに投資していないと明かす。その理由は「価値の源泉がどこにあるのか、十分に理解できないから」であると率直に語った。
一方で、法定通貨への見方は厳しい。1971年のニクソン・ショックでドルと金の交換が停止されて以降、金価格はドル建てで約150倍に拡大したと説明。資本主義は通貨を増発しながら経済規模を拡大する仕組みである以上、通貨価値は「構造的に希釈される」との見方を示し、金の上昇は地政学リスクのみならず、通貨制度そのものへの構造的不安の表れであると述べた。通貨価値の希薄化という問題意識は、暗号資産の支持像とも重なる部分がある。
セッションの終盤には、それぞれの投資家層の変化が話題となった。
辰巳氏は、三井物産デジタルコモディティーズが2022年から発行するジパングコインについて、従来金投資を行ってこなかった若年層などへのアプローチを狙った商品であると説明。暗号資産から参入した層を金投資へと橋渡しする役割に、一定の手応えを感じていると述べた。
〈モデレーターを務めた三井物産デジタルコモディティーズの辰巳氏〉
池水氏も、金投資の投資家層の変化に言及。かつては高齢者のイメージが強かったが、コロナ禍以降は若年層、特に若い女性が目立つようになったと指摘。海外旅行などを通じて「円の弱さ」を体感し、通貨価値の変動を身近に感じていることが背景にあるとの見方を示した。
最後に山田氏は、金が抱える物理的な保管コストという制約をデジタル技術が補完できる可能性があると述べ、ジパングコインのような商品が新たな資産形成手段となる可能性に期待を示した。
5000年の歴史を持つ金と、十数年のビットコイン。時間軸は大きく異なるが、インフレ下で資産を守るという課題に向き合う点では共通する。国内でも暗号資産のETF解禁や税制改正が予定される中、金融システムの中でどのような役割を担うのか、今後の動向が注目される。
|文・写真:橋本祐樹

